千年の杢−木の質感を生かした茶筒や盆

3尺超の大盆を挽く−それは格闘

大型ろくろ3尺1寸大盆を挽く

3尺(約90センチ)を超える大盆。乾燥前の材料はゆうに20キログラムを超えます。その粗挽きはまさに格闘と言ってよい迫力があります。危険と隣り合わせのため、人を近づけるわけにはいきません。ゆっくりを回りだし、スイッチを切っても惰性でなかなか止まりません。切削音はふつうの轆轤が高いのに対して、大型轆轤は重低音です。

大型ろくろ大盆の粗挽き

大盆となると、粗挽きは2度行うこともあります。乾燥前の栗材を1回目の粗挽きをしたときは、挽いて数分もたたないうちに、材が動き(歪み)ました。2、3ミリのことでしょうが、バランスを保とうと木が瞬く間に反ったのでしょう。大盆ならではのことで、木の不思議さをあらためて実感します。

花梨瘤大盆 花梨瘤大盆花梨瘤大盆(径1058mm)

約20年前、特注で大型轆轤を導入しました。径75cm以上の盆を、この大型轆轤で作ります。径9cmもあるシャフトに材料を固定し回すだけで、相当の危険が伴います。シャフトから外れたら大事故です。外周の回転速度は速く、中心は極端に遅いわけで、それにかんなをあてるのです。

直径1m前後の大盆を挽く木地師は全国に何人もいますが、一枚物の材料自体が少ないことと大盆そのものの需要が少ないだけに、どの木地師にとっても挽く機会はそう多くはありません。従って、技術の習得も難しいものがあります。

写真の花梨瘤盆は10数年前に挽いたもので、直径1058mm高さ92mm、重さ28kgの大作です。無塗装です。

ギャラリーの藤原盆No.2002も、知る人ぞ知る大盆の一つの典型です。藤原盆は、群馬県水上村藤原でかつて作られていた伝統的な菊花文様の盆です。

大盆の重厚な存在感

大盆は円卓円卓になる欅大盆(No.2008)

これまで挽いた75cm以上の大盆はわずか約30枚。最大径120cmとなると、この20年で欅と花梨の各1枚、あと栃の数枚を数えるだけです。特に1メートルを超える特大盆の希少価値を分かっていただけるのではないでしょうか。

出来上がった特大盆は、座敷で円卓やあぐら膳としても使えます。脚を付ければ重厚な一枚板のテーブルとなります。もはや家具といってよいほどの存在感があり、空間を演出できます。


平面を挽く難しさ

ろくろで挽くろくろの右側に座り挽く

轆轤を使えば、誰が挽いても丸くなります。回転するものに刃物をあてれば真円形になるのは当然で、特に大きな盆の場合、難しいのはむしろ平面性です。いかに平らな面に仕上げるか、そのことがまず重要です。

製材した材料は、場合によっては数年間乾燥させて、材として熟成させなければなりません。慌てて乾いていない材を挽くと、後で曲がって、取り返しがつかなくなります。

均一な平らな面を、刃物で削り出すというのは、簡単そうで難しいのです。木工ろくろを始めた者が、最初に突き当たる壁は、平面を挽くということかもしれません。技術革新が進んだいま、コンピュータ制御の旋盤を使えば簡単ではないかと思えるかもしれません。千変万化とも言える材の固さや節、逆目などに、最新旋盤なら確かに対応できるでしょう。しかし、木の個性を見極めた上で一つ一つ手作りする銘木挽物の世界に、それは向いていません。

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