千年の杢−木の素材感を生かした器

おろそかにできぬ乾燥工程

銘木材料を乾燥している様子桟積みによる自然乾燥が基本

銘木を含めあらゆる木工製品は、素材の乾燥という工程をおろそかにすることはできません。十分に乾燥せずに加工してしまうと製品に必ず歪みを生じます。材料が歪むことを「暴れる」とか「動く」とか言うようですが、私の場合は「驕る(おごる)」と言っています。私の場合は、いったん乾きすぎる状態にして、その後通常の環境に「戻し」をしています。どのくらい乾燥すればよいか。含水率10%とか15%という尺度もあるようですが、建材や家具材では意味をなしても、あまりに強い個性的な木目の材ではやはり勘に頼らざるを得ないと思います。木地師は、長年木を扱うようになると手に取るだけでその材が乾燥しているかどうか見分けがつくようになります。

乾燥は「1寸で1年」?

木取りしている様子手製コンパスで木取りする

材料が乾燥十分かどうかは、常温で使用する環境になじんだかどうかが基本となります。長年寝かせた方が格が上がるワインなどと違います。材料の厚みが1寸(約3センチ)なら1年とも言われてきましたが、年月という尺度だけで見るのは誤りなのです。すぐにOKというものもありますし、それこそ10年かけた方がいいというものもあります。

銘木材料を乾燥している様子木の色はこんな違う

ただ、流通する木材ががいつ伐採されたものか、よく分からないのが現状です。木地師は山々を渡り歩いて伐採し製品を作る漂泊の民だった、というのは遠い昔の話です。現代の木地師は、自ら伐採はせず、材木店などで購入するのがほとんどです。材木店や市場では、生鮮食料品と違い、材料の履歴や原産地が詳細に表示されているわけではありません。結局、木地師自身の確かな目利きが大事なのです。

材料の乾燥は大雑把に言うなら、2、3年がめどでしょう。木地師としては、素晴らしい素材に出会ったなら少しでも早く加工して世に送り出したいのが心情です。乾燥がほぼ十分である、つまり素材として熟成したと判断すれば、挽いてしまうでしょう。どんな名工でも、その判断が誤まりという場合があります。木がもつ個々の性格は欅ひとつとっても極めて多様で、木地師としては乾燥を続けるか挽いてしまうかは、迷う場面も少なからずあるのです。

それでも木は伸び縮みする

東京の百貨店で何度か展示即売会に参加したことがありますが、そのころはまだ加湿器がなく、たまたまその百貨店はふつうの住宅と違って湿度が極端に低かったのです。白木地の宿命でしょうか。歪む盆が出たり茶筒の蓋と本体の合わせがきつくなったりしました。富山にもって帰ればすぐに元に戻るのですが、その場で歪んだものを買おうという人がいるわけがありません。常温で使う環境といっても、厳密に言えば、太平洋側と日本海側では違うのかもしれません。私は、湿気の多い梅雨時はあまり挽かないようにしています。冬場は、雪が多い割に空気はそれほど湿っていないので、作業するには問題がありません。

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